喪が明けないうちに。
警察とのやりとりやJの病状については大まかにしか書いていない。
お伝えしたいのはそういった点ではなく、Gやその周辺人物に関することである。
Gの会社に就職してからのJは家にはあまり帰らず、休日がいつなのかも家族は把握できなかった。
休日ですら職場に向かい、遅くまで帰ってこない生活であった。
両親は心配し、何度も業務や休暇についてJに尋ねた。
業種と、Jが使い走りにされていることくらいしかJ本人は話さなかったからだ。
その件については使い走りとしか表現できない。
会社に何故か犬がいて、その世話をさせられていたという。
何度も道に飛び出していこうとする大きな犬を、傷だらけになりながら散歩させられたそうである。
そのことや業務についてJに尋ねると、露骨に嫌な顔をしたり、答えをはぐらかしたりとまともな返答を得られなかった。
なぜそんな態度をとるのかわからなかったが、Jが何かを隠しているのは明らかだった。
何を隠しているのか気にしつつも、応じてくれないのでは仕方ないといつしか私は諦めてしまった。
そのうち話す気になれば話してくれるだろうと思ったのだ。
それがいけなかったのかもしれない。
Gが様子のおかしいJを連れて、職場からうちに連れて帰ってきたことがある。
その際、Gは両親に会わずにJだけを残して帰っていった。
両親は様子がおかしいということしかわからず、J本人に尋ねたが、要領を得なかった。
すぐ父がGに電話をして職場で何があったかを尋ねたが、急に様子がおかしくなったということしかわからなかった。
Gはなぜ、連れてきたその場で説明しなかったのか。
こちらが尋ねなければ黙っているつもりだったのだろうか。
--------------------------------------------------------------------------------
Jが発見されたと警察から連絡があった後、どちらからともなく伯母と父が電話をした。
「だから早く病院に連れていけと言ったのに」
Gの嫁が言ったとされる。
伯母から父へ、父から私への伝聞であるため、まるで伝言ゲームのようである。
G嫁はうちに電話をしたわけでも、直接会って話をしたわけでもない。
GもG嫁も、Jの異変を知っていて家族に何も知らせなかった。
それでいてこの言い草である。
G嫁は私にとって従妹にあたり、Jや私の幼い頃をよく知っている。
子供の頃はうちにもよく遊びに来ていたというし、私も伯母宅に何度も行った。
親戚のよしみでJはGの会社へ就職したというのに。
G嫁にとってうちの家族は他人よりも遠い存在といった認識だったのだと思う。
G関連の話をなぜ知っているかというと、いとこの母であり父の姉である、私とJからすると伯母にあたる者が父に喋ったからである。
そして父も伯母に家族の事情をなんでもかんでも喋っていた。
この二人は世間話感覚で個人のプライベートを好んで話題にする人間であった。
そんな伯母が息巻いてJの件に関わろうとしたのは言うまでもない。
Gの家で日頃どんな会話が繰り広げられていたか想像に難くなかった。
Jの葬儀は、家族だけでひっそりと執り行うことになった。母の希望であった。
しかし、葬儀について父から事後に聞いた伯母は怒ったそうだ。
「葬式に家族しか出ないなんてかわいそう。うちだって参加してやりたいのに」
と言ったという。
--------------------------------------------------------------------------------
「他人よりも遠い存在」という考えは私にしても同じである。
以前から伯母やいとこは私の母と確執があったし、私は私で思うところがあった。
Jの件が絡んで以来、完全に縁が切れたと私は思っている。
親戚であることも血の繋がりも、何の役にも立たないと思い知らされたからだ。
疎遠にしたいが、父と伯母が繋がっているせいか何かと自宅にやってくる。
例えば、Jが他界して翌月のことである。
季節は秋から冬に差し掛かろうという頃であった。
伯母と従姉は毎年父にスタッドレスタイヤの付け替えを頼みに来るのだが、その年も同様であった。
喪が明けてもいないうちに、である。
従姉はG嫁とは別の人物である。
だが本質は皆同じようで、香典と花束を持って来た。
タイヤの付け替えのついでとでもいうように。
花束には値札のシールが付いたままだった。
近所の人からの香典も遠慮したのに、父は伯母が持ってきたからという理由で受け取った。
父と伯母のやり取りは、基本的に父が喋らない限り私や母には伝わってこない。
伯母と従姉はいつのまにかやってきて、タイヤの付け替えが終わるとひっそりと帰っていった。
後にこのことを知って、私も母も伯母一家と父に対して落胆した。
彼らに対して恐怖すら覚えた。
私は香典を返すように父に言い、父は電話で伯母に伝えた。
しかし「こちらの気持ちをなぜ突き返すのか」と言い返され、電話は切れた。
結局その香典はどうなったかというと、父が伯母宅のポストに入れることで収束した。
伯母一家にとってうちは「香典を突き返した常識知らずの家」ということになっている。
盆には本家であるうちに毎年集まって精霊流しをしていたが、それもコロナ禍を理由に取りやめている。
コロナが収まったらどうなるかはわからないが、母はやりたくないと言うだろう。
私も同感である。
0 件のコメント:
コメントを投稿
公序良俗に則した内容をお願い致します