3/02/2024
非難 前編 - 閲覧注意
大切な人を亡くしたとき、他人から責められたら。
私の兄弟は数年前に自死した。
少しずつ様子がおかしくなり、医者に診せようということになった矢先だった。
素人目に見ても精神を病んだことはわかった。
希死念慮を口にしたことは一度もなかったが、統合失調症らしき周辺症状が言動に現れていた。
詳細は省くが、私のような素人が見ても様子がおかしいと気付いたのである。
その兄弟を仮にJとする。
異変が起きてすぐ、私は何とかしなくてはと思った。
双極性障害か統合失調症か、あるいはその両方かもしれないと思い医学情報サイトの記事や専門書を探した。
してはならないことや言ってはならない言葉には極力注意した。
心療内科医である私の主治医にこの事を相談すると、なるべく早く病院を受診するよう勧められた。
私を含め、家族は病院を受診してほしかった。
しかし、J本人は自分で判断できると言い張った。
両親はじれったく思ったようだが、相手は三十手前の大の大人である。
従順なたちではなく、こだわる性格なうえに病気のせいか優柔不断になっており、説得が非常に難しかった。
対処はできる限りやったつもりだった。
何度も、病院に行こうと誘った。
今思えば病気がそうさせていたのかもしれないが、その日のJは普段通りに見えた。
調子がよさそうだし、帰ってきたらまた話をしよう。
最後に言葉を交わした日の朝、Jを仕事に送り出し、私も出かけた。
いつものように職場に向かい、いつものように帰ってくると思っていた。
その夜、Jは帰ってこなかった。
私は捜索願を出した方がいいんじゃないかと両親に提案した。
その頃のJが明け方に帰ってくるのは珍しくなかったため、どこかで車中泊をしてそのまま職場に向かったんじゃないかと両親は思っていたらしい。
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今となってはうろ覚えだが、Jが失踪した翌日のことである。
Jの職場の上司が二人、自宅にやってきて、父が玄関で応対した。
一人を仮にGとするが、Gは私の従姉妹の夫であり、Jにとっては上役である。
G達はJを探しに行くと言い、その場所に心当たりがあるとも言った。
父は心当たりがある場所はないかと問われ、わからないと答えた。
それを聞いたGは父にこう言った。
「親ならわかって当然。わからなくても探しに行くのが普通」
Gと同意見の方はこれ以上読んでも面白くないし、腹が立つだけかもしれない。
しかしこちらとしても、GやGに同調する人に対して反論したい。
ここに書かれたことだけで全てを知った気にならないでほしい。
これは私の視点から記した情報であり、身バレを防ぐために伏せている点もある。
それでもと言うなら、私は「見ず知らずの他人に何がわかる」と言いたい。
父は気の弱い男である。何も言い返せずにその足で捜索に向かうG達を見送った。
しかし捜索は警察に任せているし、その警察から動かなくてよいと言われたのだ。
探すとして一体どこを探すというのか。
これはテレビドラマなどの架空の人物のように、探してすぐに解決するような性質のものではない、と私は思った。
Jは明らかに病気であったため、正しい判断ができるかどうかが家族の気掛かりだった。
捜索願を出して数日後、Jは隣県で発見された。
記事にしないよう申し込んだのでニュースにもなっていないし、どの新聞にも載っていない。
地元の広報誌の死亡欄に載っただけであるし、近所に住む人は本当のことを知らない。
交通事故で他界したということにしているからだ。
Jには、職場の人間にだけ話していたことがいくつかあった。
隣県の水族館に行きたいとか、テーマパークに行きたいといった些細な話である。
その話を頼りにG達は自ら捜索を始めたらしい。
らしい、というだけでどこまでが真相なのかはわからない。
ただ、そのうちの一か所はJの発見された場所であった。
G達が捜索した時はなにもなかったらしいが、一週間もしないうちにその場所で近隣の人によって遺体が発見された。
乗っていたはずの車は見当たらず、その車の中にあったと思われるものはスマホも含めて今も見つかっていない。
Jの部屋には遺書も、遺書に類するものも残っていない。
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警察から連絡が入り、Gの元にも連絡があった。
再びGが実家にやってきて、応対した父に言い放った。
「親のくせになぜ自分の子供のことを何も知らないのか。これが自分なら死なせずに済んだ」
こう書き直しているが、本来はもっと乱暴で吐き捨てるような言葉であった。
Gは父よりずっと年下の人物であるうえ、Gの子どもは当時未成年である。
一方Jは先述した通り、もう子供ではない。
実家住まいだったとはいえ、親に管理されるような年頃ではない。
私と母はG達が何かを知っている可能性を考えたが、子を亡くした親にこんな言葉をかける人物と一切関わりたくなかった。
後から聞いた話だが、Gは捜索願を出していたという。それも、うちより先に。
Gは何もかも家族より先手を打っていた。
警察に問い合わせて、情報が入り次第家族より優先して知りたいと言ったらしい。
これは警察側から聞いたことなので確かであるが、Gの真意はわからない。
不可解な事柄の一つである。
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